目次
作品概要・あらすじ
大貴族ウィリアムズ家の長女に生まれたアリシアは七歳の時に前世の記憶を思い出す。そして自分が大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気が付いた。奇麗ごとばかり言っているヒロインは大嫌い。ハーレムにも興味が無い。大好きなアリシアに転生したのなら、世界一の悪役令嬢として名を残してやると心に決め、心身を鍛え始めれば驚く成果が出た。
本を読めば初日は一時間に一冊だったものが、一週間後には一時間で十冊読めるようになり、初日には苦労した腹筋百回と腕立て五十回も一週間後には腹筋五百回腕立て三百回バク転宙返りやテンポ宙返りまで出来るようになった。剣を振る力を得るのには少し時間がかかったが、魔法も簡単なものは容易く習得できた。
一日十時間の読書。朝晩には剣の稽古。合間に令嬢としての教育を受けて成長していったアリシアは十三歳で魔法学園へ入学。聖女キャザー・リズの監視役に抜擢される。
博愛と平和を語るばかりの聖女の頭に現実を叩き込む為に、アリシアはリズと対立し、悪役となる王命を受けいれた。
過酷な秘密指令に父アーノルドは反対したが、アリシアは恭順に受け入れ、内心で大喜びした。
アリシアはリズと対立し、学園で悪名を馳せる。評判が悪くなるほどアリシアは喜び、優秀な聖女と対等に渡り合う為に努力を続ける。
そうしたアリシアの姿に惹かれる者も居れば、離れて行く者も居る。
兄のアルバートとアランは妹を非難してリズを擁護した。兄のヘンリはアリシアを認め、王命を知っている王太子デュークは幼い頃から感じていた好意を恋心へと変化させてアリシアを見守り続ける。
魔法学園の生徒会長である王太子デュークはアリシア派。生徒会役員であり王太子の幼馴染であるアルバート、エリック、ゲイルは生徒徒会長のリズ派へ、フィンとカーティスは中立。
五大貴族の息子たちは王太子デュークと対立する事は出来ないし、リズは王太子に好意を持っている。そして国王は王太子と聖女の結婚を望んでいる。
王太子と聖女が婚姻する事を知っているアリシアは王太子へ好意を持たないようにしていたが、優しい愛情に心が揺れ動く。
そうした頃、リズ信者のジョンソン家ニールがアリシアを誘拐した。アリシアと助手のジルが命の危機に晒された事で父アーノルドの忍耐が切れ、アリシアは二年間軟禁される事になる。
主人公の人物紹介
ウィリアムズ・アリシア
大貴族令嬢。闇属性。転生者。黒髪。黄金の瞳の美少女。前世でスポーツが得意だった事から身体機能記憶が高い。
七歳でゲームの悪役令嬢に転生した事を理解したアリシアは世に名を残す立派な悪役令嬢になるべく努力を始め、年齢に不相応な力を手に入れる。
家族はアリシアの異端を隠したが国王に知られ、同じく異端とされていた聖女の監視役に任命される。
聖女を厳しく指導する監視役は嫌われ、孤立する。父アーノルドは反対したが、悪女を目指すアリシアは受け入れた。
ゲームの設定通り、王太子と聖女は順当に卓越した力を手に入れてゆき、アリシアは聖女と対等でいる為に努力を重ね、聖女と関わりの無い仲間を増やしていく。
その筆頭が貧困村のウィルとジル。老齢のウィルは知識を与え、少年ジルは助手となって魔法学園へ同行し天才的な頭脳で助力する。
それぞれの思惑が交錯する中、アリシアはひたむきに「立派な悪役令嬢」となるべく日々を過ごしてゆくが、基本的に日本人思考の善人なので「正論で殴る」事が悪役令嬢としての主な攻撃方法になっている。
登場人物紹介
シーカー・デューク
デュルキス国王太子。水属性。髪と瞳は青。肌は褐色。学園生徒会長。
ウィリアムズ家長男アルバートと幼馴染である事から幼少のアリシアと出会い、努力家な所に好感を、卓越した才能に興味を向けていた。誕生日プレゼントとしては高価すぎるダイヤモンドのネックレスをプレゼントしている。
国王である父が聖女の監視役として年下のアリシアを抜擢した事に不満を覚え、魔王学園に入学したアリシアを見守ってゆくうちに恋心が育つ。
国王は王太子と聖女の婚姻を望んでいる事からアリシアを捨て駒にしても聖女教育をしたいと考えているが、デュークはアリシアと結婚したいと思っているので父親のやり方を受け入れる事に苦痛を感じている。
ジル
貧困村生まれ。髪は焦茶で瞳は灰色。頭脳明晰の天才少年。
貧困村で暴力に苛まれ死にかけていた所をアリシアに助けられ、ウィルに養育される。アリシアが聖女の監視役を受け入れる条件としてジルを貧困村から引き取り助手として魔法学園に連れて行った。
アリシアが悪役令嬢として名を馳せる為に敵意を喜ぶ事からジルも受け入れて協力しているが、本心では酷い目に遭って欲しくないと思っている。
貧困村には霧の結界が張られていて、魔法を使える者、もしくは特別な薬を使用した者しか出入りが出来ない。貴族しか魔法が使えない事から、貧困村は暴力がはびこる牢獄になっている。
キャザー・リズ
聖女。全属性。黒髪で瞳はエメラルドグリーン。魔法学園生徒会副会長。平民。パン屋の娘。乙女ゲームのヒロイン。
聖女である事は公開されていないが、王族と大貴族は知っている。全属性魔法が使える事で特別に魔法学園への入学が許可された。努力家で才能に溢れ、魔法の力は世界でも指折りレベルに到達する。慈悲深い博愛主義。
入学当初は虐められていたが、王太子や五大貴族の息子たちと友人になる事で敵意は無くなり、リズの優しい性格に心を奪われた者たちが集うようになる。
リズは王太子に好意を持っているが、王太子はアリシアに心を傾けている。そしてアリシアは王命によってリズと対立する立場を取っている事から、リズはアリシアに対して複雑な気持ちを持っている。
ウィル
貧困村のおじさん。
過去に王宮で働いていた事がある。天才的な魔法使いだったが問題が起こって魔法を使えなくなり、両目を奪われて貧民村に追放された。
本で読むだけではなく現実を見て知るべきだと考えたアリシアは屋敷の近くに貧民村がある事を知り、幼い頃に霧の結界を越えて入り込むが、想像以上に陰惨たる貧困村の現状に戸惑ってしまう。そこへウィルが声を掛け、二人は出会う。そして貧困村の事などを話すうちにウィルの聡明さを見抜き、彼を師として学ぶ為に貧困村へ通っていた先で死にかけたジルを助ける事になる。
漫画の見どころシーン
王太子デュークが誕生日プレゼントとして、幼いアリシアにダイヤモンドのネックレスを渡す場面。
ダイヤモンドは希少価値が高く、友人の妹への誕生日プレゼントに与えるような物ではないし、それが「王太子」から「高位貴族の令嬢」へとなれば周囲は当然のように深い意味を理解したが、王太子は聖女と結ばれるエンドだと知っているアリシアはあえて理解を避け、別の意味があるのだろうと放置する。
それでも王太子はことあるごとにアリシアへと愛情を示し、アリシアは嬉しく思ってしまうからこそ冷たくあしらってしまう。
王太子の顔が近付いたり、抱き締められたりして顔が赤らみ心臓が高鳴るアリシアが可愛いからこそ「王太子は聖女と結ばれるんだから好きになっても無駄!」という強い信念で突き放される王太子が不憫でならない。
漫画の見どころポイント
悪役令嬢アリシア&聖女リズの関係性が見どころ!
七歳で前世の記憶に目覚めたアリシアは、乙女ゲームの悪役令嬢として破滅し、使い捨てられる事を確信した。そして、どうあがいても終わる身ならば大好きな悪役令嬢として大輪に咲いて散ってみせようと心に決めた、ように見える。
だからアリシアは努力を惜しまず、恐怖を踏み越え、怒りに身を委ねる事があっても、この世界に生きる全ての人々に対して憎しみや恨みはもたないし向けない。それが「悪役令嬢アリシア」の矜持であり、存在理由である。
聖女リズはパン屋の娘で平民。魔法が使えるからと魔法学園に入学できても周りは貴族ばかりで虐められ、孤独になり、悲しみに俯くリズに優しく声を掛けてくれた相手が王太子デューク。リズの目には雨上がりに射す光、白馬の王子様に見えただろう。
王太子と五大貴族の息子たちに支えられて歩き出したリズは明るい笑顔と優しい言葉で多くの友人たちと手を取り合うようになり、努力を惜しまず力を付けてゆく。
二人の性格はとても良く似ている。
だからこそ正反対の選択をした事で対立する。
悪役令嬢アリシアは華々しく散る為に世界を救う聖女リズに甘えを許さず、自分だけの小さな幸せを手放せない聖女リズは正論で邪魔をする悪役令嬢アリシアを受け入れられない。
世界の為に孤独も恐怖も非難も絶望も全て受け入れて踏み越える悪役令嬢アリシアの姿は、小さな痛みにも膝を付き、助け手に縋り付いた聖女リズを惨めに貶める。
孤高に凜と美しく咲く悪役令嬢アリシア。
彼女を受け入れ、彼女のようになりたかったと口にしてしまえば、敵を作らず、味方を増やし、孤独と拒絶を遠ざけ、恐怖から逃げ回る自分は存在できなくなる。
王太子デュークはアリシアを愛している。彼女の強さを、自由を、厳しさに隠された優しさを大切にしている事が分かるからこそ、自分を選んで欲しい。強くなくても、自由でなくても、厳しくなくても、弱くても、ありのままの自分を受け入れて愛してくれたら一人ではなくなる。
けれどデュークはアリシアを愛している。
そしてアリシアはデュークの愛が無くても一人で歩く力を持っている。
羨ましい。でも、自分には出来ない。笑顔と優しい言葉を捨てれば、周りに居る人たちも居なくなって一人になる。そんな怖い事は出来ない。優しいのがいい。怖いのはいや。平等なのがいい。貴族も平民も関係ない。そうして欲しい。そう言って欲しい。
そうなって欲しい。
理想論と言われても、どうやって作り上げるのかと責められても、欲しいものは平和。その気持ちに偽りは無い。
聖女リズは孤独を恐れるが故に、一人になっている。
悪役令嬢アリシアは孤独を恐れないが故に、仲間が寄り添う。
どうしてと嘆く聖女リズは悪役令嬢アリシアを「自分と同じ」にしたい。孤独に怯え、拒絶を恐れ、愛されたいのだと嘆く、アリシアを見たい。
そうすれば私たちは親友になれる。
悪役令嬢アリシアは聖女リズの手を取り高みへと導き、聖女リズは悪役令嬢アリシアの手を取り俗世の少女に引き落としたい。
一枚のコインの裏表のように、彼女たちがお互いを見つめて向け合う気持ちは、この物語の中で最も強く、世界の運命を決める対立になっている。
だから結末は、自分が破滅しないと知ったアリシアの心から捨て身が無くなり、王太子の行動や言動に振り回されるようになり、周りの人たちの愛情が欲しい、ずっと一緒に居たい、幸せになりたいと望み、柔らかな心で踏み出す恐ろしさと勇気を知って欲しい。
そしてリズは、王太子ではない別の誰かと結ばれて欲しい。個人的には王太子の幼馴染の一人だが五大貴族ではないカーティスが望ましい。彼はとても良くリズを見ている。彼だけがリズに自分の言葉を向けている。リズの甘い言葉に惑わされずにアリシアと戦っても無意味だと真摯に忠告しているのはカーティスだけであり、その言葉は「君を愛する者は居るよ」と告げているように見える。